パブロ・カザルス
カザルスの教えを受けた若き音楽家は、こんな回想をしています。
 あるとき、カザルスの前で演奏することになったが、大音楽家の前で気後れがして、こちこちになってしまった。それで、大変おそまつな演奏をした。
 しかしカザルスは、「ブラーヴォー! ブラーヴォー! 素晴らしい!」「見事だ! 偉大だ!」と言って抱擁してくれた。 
 ひどい演奏をしたと思った彼は、あまりの賞賛に戸惑います。
 後に、カザルスと再会した折、その時の戸惑った気持ちを正直に話すと、巨匠は当時の演奏の良かったところを一つ一つ挙げて、こう言ったといいます。
「あとはミスばかりあげつらって人を評価するような、もののわかっていない連中が取り沙汰すればいい。たった一つの音、たった一つの素晴らしいフレーズに、私は感謝することができる。君もそうしなさい」

何度このエピソードを考えてもすばらしいと思う。突き抜けているカザルスの心。
すべての明るい面を見るようにする。そこに関わる多くの人の努力と工夫。感謝の気持ち。たった一つのことでも感謝することができるようにすること。感謝の気持ちを忘れないこと。心の傲慢を切っていくこと。