メモ 


全人性とは人格の異名といってもよく、統合原理といっても出来合いの抽象的な理論などではありません。卓越した人格の力を通して、内在的に模索される以外になく、いわば統合の力という絆の結び目を成すのが、人格なのであります。

 青年をこよなく愛した恩師が、よく、「人生の名優たれ」と励ましていたことを私は懐かしく思い起こすのであります。確かに、人格の力というものは、役者が舞台の上で、自分の役割に徹し、演じきっていく時の集中された力によく似ております。名優がそうであるように、卓越した人格にあっては、どんな切羽詰まった立場におかれても、どこかでその立場を演じているような余裕と落ち着き、ある種のユーモアさえも漂わせているものであります。そして、淡々とその場を切り抜けていけるのであります。それは、自分で自分をコントロールする力といってもよいと思います。

     (『新しき統合原理を求めて』)