『希望の虹』「昆虫学者ファーブルー命は一番の宝!−」
池田先生が今執筆されている作品の中で、
この小学生へ向けての文章が一番好きです。

クラスの子へ向けて編集・修正
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 夏になると、セミの元気な声がひびきますね。
「ミーンミンミンミー」
ジージー」「ツクツクホーシ」
「カナカナカナ」
小さな体から大きな声を出して、一生けんめいに鳴いています。
 セミがどこから来るのか、どうやって大きくなったか、みなさんは考えたことがありますか。
 セミのことを調べに調べて、”暗い地下で何年間も働いてから、やっと明るい太陽の下で短い幸せを歌っているんだ”と、セミの気持ちを思いやった人がいます。
 フランスの偉大な昆虫学者アンリ・ファーブルです。
 今回は、100年以上も世界中で読まれている『昆虫記』の作者ファーブルについて学んでいきましょう!


 ファーブルは、1823年、いなかの小さな村で生まれました。
 両親と弟の4人家族。まずしいくらしでしたが、家のまわりには、ゆたかな自然がありました。野原や小川が遊び場で、虫や鳥など、たくさんの生き物にかこまれ、ファーブル少年はすくすく成長しました。
 中学校では、しんけんに勉強して、成績はクラスで一番になりました。しかし、お父さんの仕事がうまくいかず、学校に通えなくなり、働くことになってしまいました。朝から晩まで働いて、くたくたになりました。
 そんなファーブルの心の支えとなった”友だち”がいました。
 それは、小さなことから大好きだった”虫たち”です。見たことのない虫を見つけると、心がワクワク、ドキドキしました。
 ファーブルは、小さな虫の「命」に大きな「希望」を見いだしました。そして苦労に負けず、学び続けていったのです。やがて、小学校の先生になりました。
 のちにファーブルは、「歩きつづけさえすれば、行きつくところに行けるのだ。そして、たえず歩きさえすれば、力が自然にわいてくる」と語っています。
 ねばり強く努力を続ければ、必ず自分のなかに眠っている力を出せるようになるんだね。


 ファーブルが本格的に昆虫の研究をするきっかけになったのは、野外授業の時でした。子どもたちから、ハチが巣のなかにあまいミツをためていることを教えられたのです。
 ファーブルはもっと知りたいと思い、高価な昆虫の本を思い切って買いました。その本を読んだ感動が、昆虫学者のとびらを開いたのです。
 それから、中学校や高校で理科を教えながら、仕事の合間をぬって昆虫の研究をするようになりました。
 そうして『昆虫記』の第1巻ができたのは、ファーブルが55歳の時です。そこから、さらに約30年かけて全10巻を発刊しました。人生のすべてをかけて生み出された本なのです。
 『昆虫記』には、1500種ほどの虫たちや動植物が登場します。
 この本には、むずかしい言葉は使われていません。”だれにでも分かりやすく、親しみやすい内容に”という思いで書かれたからです。また、だからこそ、世界中に多くの読者を広げることができたのです。
 やがてフランスでは、大統領も大臣も、この偉人ファーブルのもとを訪れ、最敬礼して功労に感謝しました。
 ファーブルは「命の尊さ」をよく知っていました。
 観察が終わると、虫の大好きなものを与えてから「よくいろいろなことを教えてくれたね。さようなら」と語りかけ、自然にもどしたというのです。
 『昆虫記』に、こうあります。
「一番ちっぽけなものの生命にしても、それは尊いものだ」
 この『昆虫記』からは、虫たちへの愛情や、命の力への驚きが伝わってきます。
 ーーミノムシのお母さんは、タマゴを産むと、自分が着ていた綿毛の服をぬぎます。その服でタマゴをくるみ、温めるのです。さらに子どもたちのために、葉っぱや、くきで作った家をあけわたし、子を守るようにして亡くなります。
 また、ホタルはむかしの人に「おしりにランプをもっている虫」と呼ばれていました。ある種るいのホタルのランプは、体から切りはされても光続けます――
 命は、私たち人間の一人一人も、また、どんな小さな虫たちも、もっている最高の宝物です。
 ミノムシのお母さんも、命をかけて子どもを守っています。
 みなさん、お家の人がどれほど、自分のことを大事に守ってくれているか、思いおこしてみてください。
 みんな、かけがえのない命なのです。
 ホタルのランプが光り続けたように、どんな困難のなかでも、自分を光り輝かす力を、みなさんもまた、もっています。
 みんな、すばらしい命なのです。
 もちろん、悪いことをする虫もいるし、虫が苦手な人や、きらいな人もいるでしょう。ただ、たとえば、花粉を運ぶミツバチがいなくなったら、多くの植物が、地上から姿を消してしまうといわれています。植物がなくなれば酸素がなくなって、私たち人間も生きていけなくなります。
 小さな虫であっても、大きな役目をはたしています。
 みんな、命はつながっているのです。
 だからこそ、まわりの”命”を大切にする人は、自分の命を大切にできる人です。そして、命は、みんないっしょに生きていくのです。
 みなさんも近くの公園や野原や水辺に行ったり、家族で旅行に行ったりした時に、たくさんの命とふれあってください。そして、もっともっと元気いっぱい、自分の夢や目標に、一生けんめい挑戦してください。
 一匹の虫から大いなる希望を生み出したファーブルのように!
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