読書 「新しき人類を 新しき世界を −教育と社会を語る−」

新しき人類を新しき世界を

新しき人類を新しき世界を

二十一一世紀に人類が取り組むべき文明論的課題として、
拮抗し、対立し、背反しているかのみえる①知識と知恵②自由と平等③伝統と近代化の間に、どう橋を架け、融合させていくかという、三つの架橋作業についての対談。

知識と知恵に関して考えを深めたかったので、再読。


引用 アインシュタイン
「知性は方法や道具に対しては鋭い鑑識眼を持っていますが、目的や価値については盲目です」31項


・真の幸福は他者との「共生」の中に生まれる
「幸福」と「快楽」とをはき違えている。

快楽志向そのものは誰でも持っているもので、必ずしも悪ではないが、際限のない欲望の肥大化の先に問題が生まれる。

引用 プラトン
「ひとが疥癬にかかって、かゆくてたまらず、思う存分いくらでも掻くことができるので、掻きつづけながら一生をすごすとしたら、これもまた幸福に生きることだといえるのかね?」『ゴルキアス』


・個別性より関係性を重視する「縁起」の思想
池田「個のなかに全体を見出す、生き生きとした感性。宇宙の森羅万象が互いに関連し、依存し合いながら、絶妙なハーモニーを奏でていると見る知見。」39項
具体例を紹介。
インドラネットの比喩
http://d.hatena.ne.jp/Teruhisa/20080725/1216997622
他に具体例としてゲーテタゴール・ブレイクの詩、
物理学から「相補性」理論、「不確定性原理」の紹介。

池田「表面的には対立し、敵対しあっているように見えても、徹頭徹尾、対立関係、敵対関係にあるのではなく、それは究極における結びつきの一つの現れであるとするのが、仏法の知見です。」40項

”コップが存在する”のではなく”存在がコップする”という、日本の学者の言い方を紹介。

・人間を人間たらしめる知恵、人格の輝き
レオナルド・ダ・ヴィンチの考えを紹介。
「知恵は経験の娘である」
「知恵の人になる可能性は万人にあたえられている」
「老いによってものを補うに足るものを青年のときにたくわえておきなさい。老年期の糧は知恵であることを理解するならば、青年は、老いて糧なきことのないように、今を行動するべきである」
「性急は愚かさの母である」

「経験を通して得られる知恵の継承、共有」45項
がないとコミュニケーション不全に陥り、家庭でも学校でも崩壊してしまう。


・豊かな暮らしを生んだ「道具」としての知識


・言語で表現しきれない「無限」「永遠」なる実在
数について対談。
ルート2などの無理数の実体とは何か。これは古代人も現代人も認識することができない。ある程度数字で表現できるが、表現しきれない。ここで「無限」というものに思いいたる。ミクロ世界も、割っても割っても割り切れず終わりなく続いていく。宇宙も終わりなく無限である。

「言語の虚構性」(真の実在は、数や言語などの表記によっては、とらえきれないこと)

池田「言語といい数といっても、それらは人間の約束事であって、多かれ少なかれバーチャル(仮想)性を帯びざるをえない真実のリアリティー(現実)とは、そうした約束事では「表現しきれない」「割りきれない」世界であって、だからこそ森羅万象を繋いでいる「縁」ということを非常に重要視するのです。根底において「縁」で結び合わされていて、「表現しきれない」「割りきれない」のです。そのような万物一体の存在のなかから「縁」に触れて「個人」や「個物」が顕在化し、現前してくるのです。」55項


・知識を求める心から大学が生まれた


・「善く生きる」ために不可欠な宗教性、精神性
カント思想の紹介 62〜65項
善く生きるためには、実践的に宗教的要因「神」「来世」「不死」が要請されるという話。

池田「そうした時代にあって、宗教は、知識と知恵の架橋作業に、どう貢献していけばよいのか−−。おそらく、そのポイントは何らかの教義的な差異性、すなわちドグマにあるのではなく、宗教が人間の内なるものを発現させていくことができるのかどうかという一点にあると思います。内なるものとは、人間の才知を超えて、大いなるものの存在やはたらきに常に畏敬の念を抱き続ける内発的な精神性ともいえるでしょう。」64項

その内なるものときわめて親近している言葉としてカントの言葉を紹介。
「ここに二つの物がある、それは−−我々がその物を思念すること長くかつしばしばなるについて、常にいや増す新たな感嘆と畏敬の念とをもって我々の心を余すところなく充足する、すなわち私の上なる星をちりばめた空と私のうちなる道徳的法則である」65項



・有限なモデルでは宇宙の無限性を再現できない


・生命尊厳を守るための新しい倫理規範


・人間精神を腐蝕させるハイテク兵器

・二十一世紀の理想の大学を目指して


・全体的な人格形成に不可欠なコスモス感覚
プリゴジン博士の考えを紹介 
近代人は認識可能な”法則によって支配された世界”と”不確実性の支配する世界”に引き裂かれてきた。現代は、それらの新しい統一をめざす時代であると。86項


・人間の未来の科学的予測は不可能

・科学と非科学的知識と政治との調和
・人間としての根幹に関わる「言語」の重み
サドーヴニチィ「知恵とは、知識や教養、情報と違い、過去の世代の生活体験を受け入れ、習得する能力ではないかと思います。」97項

・知識と知恵に関する日本とロシアのことわざ


・文化的な違いを超えて「多様性の調和」へ

よき文学には、普遍的な精神の水脈につながる何かが、必ずある。
池田「それを「ユマニテ」(A・ジッド)、「胸を痛める心」(S・ヴェイユ)、「あまねきディスンシィ(品位、寛大さ)」(G・オーウェル)等といってもよいし、あるいは、カントの有名な定言法「汝の人格の中にも他のすべての人格の中にもある人間性を、汝がいつも同時に目的として用い、決して単に手段としてのみ用いない、というようなふうに行為せよ」を当ててもよいでしょう」107項

・規範からの逸脱を止める内発的な精神性

ニーチェの逆説
”科学の進歩によって、人間は動物並みになった”


《振り返り》
「知恵の全体性」に向かうヒントになったと思いました。

「知は力」と言われますが、知識に善悪はなく、どのようにでも使うことができます。人を不幸にも幸福にもすることができる。知識を活用する能力(知恵)や人格が問われていると思いました。
読書は貢献できる。読書経験も「知恵の全体性」につながっていると思います。たとえば、立花隆の本は、「知識の個別性」が「知恵の全体性」へ向かっていると思います。

エコロジー的思考のすすめ―思考の技術 (中公文庫)

エコロジー的思考のすすめ―思考の技術 (中公文庫)

数字についての考察はおもしろかったです。身近に「無限」があるんだと思いました。

知恵には「能力」と「知識」の側面があると思いました。