「私が唱える懐疑主義は、すなわち、

(1)専門家の意見が一致している場合は、これと反対な意見は、確実だと見なすわけにはいかない。

(2)専門家の意見が一致しない場合は、専門家でないものは、どの意見も確実とすることはできない。

(3)専門家がこぞって、あるはっきりした意見には十分な根拠がないと主張する場合は、普通の人は、自分の判断を差し控えた方がいい。

 以上の命題は、おだやかに見えるようだが、それでも、それを受け入れると、人間生活を根本的にくつがえすだろう。

 人が、進んで戦ったり、迫害したりして、もりたてようとする意見は、すべて、この私の懐疑主義が非難する三つのクラスのどれかの一つに入る。

 熱情的にいだく意見は、いつも十分な根拠がない意見である。まことに熱情というものは、意見をいだく者に合理的な確信がないことを示すばかりである。政治や宗教に関する意見は、ほとんどいつも、熱情的にいだかれる。」

バートランド・ラッセル懐疑論』柿村峻訳)