工藤幸男さんの日記

4月18日(月)
がんばらなくていい
がんばらなくていいのだ。がんばれなくて当然なのだ。がんばれ日本。その“日本”から“被災者分”を差し引いてくれないか。がんばれないのだから。支援する側の人たちなら、がんばってほしい。申し訳ないが、避難所でおにぎり一個と紙コップ一杯のみそ汁をもらうような境遇に陥った自分を、正直認めることができず、認めること自体がいやで、しかし空腹には勝てないことは百も承知で、それでがんばろうと、言われても困るのだ。
言う人々は何か勘違いしてはいまいか。住むまち、家、肉親を失くした人を早く立ち直らせたいのか。まだその現実すら受け入れたくないし、受け入れもしていない人に向かって元気を出せ、がんばれと励ます気なのか。何という貧しい想像力。
支援物資を送ってくれるのはもちろんありがたい。しかし“がんばれ”“がんばろう”はいらない。そっと送ってほしい。励まさないでほしい。乏しい想像力しかないなら、乏しいなりに、近所の四階建のマンション、ショッピングセンター、生命保険会社ビルに目を向けてほしい。その屋上近くまで迫る黒い波を思い描いてもらいたい。
そこまで登りきれない人は死ぬことを想ってほしい。
自らがそういう目に遭って命一つで助かったとき、がんばれ、がんばろうと言われて、そうだそうしようと思えるだろうか。
ーーー工藤幸男『生きる。東日本大震災ーー生き残りし者の記』(大船渡東高校教諭、津波で妻と次男を亡くす)