「綴り方教授の科学的研究」

牧口常三郎の「綴り方教授の科学的研究」という論考を再読しています。牧口の全集7巻に収録されています。とても面白い。
牧口常三郎が1871年生まれで、芦田恵之助が1873年生まれ。二人とも同時代の教育家。

「綴り方教授の科学的研究」は、大正10年(1921年)に、綴り方の随意選題か課題かをめぐって芦田恵之助と友納友次郎が小倉で講演会を行ったのと同じ年に出された論考。牧口は学習経済の視点から「随意選題」の批判論に加わった。牧口の「文系応用主義」の作文教育史上の位置づけは確かに興味深いです。ただ作文教育史の労作滑川道夫「日本作文綴方教育史」では、無視されているようでした。もしくは滑川さんが牧口を知らない可能性もあります。

牧口の「文型応用主義」とは、次のように要約されている。
一、模範原文の解剖によって内容をなす思想の排列、その現れた文章系統若くは文章模型の直観。……(読方教授に於ける比較総合段)
二、応用範分の提出、及び原文と比較読解に依る文系概念の抽出並に応用方面の探究奨励及応用力活動の鼓吹。……(読方教授の応用段にして綴り方教授の発足点即ち其の第一次的取扱)
三、応用手段を指導し共作に依る文章模型応用能力の増進、即ち文章構成の会得。……(綴方教授の第二次的取扱)
四、児童の自由制作の奨励による文型応用力の完結。……(綴¥方教授の第三次的取扱にして、読方教授の応用段の真の完了)
 すわわち、「文章の全体を構成する思想の系統的排列並に其の連結手段等」を意味する「文型」を読方科において提示し、ついでその「文型」を応用した範文を示して原文との比較を通じて「文型」の概念を明らかにし、その「文型」を適用して児童と別の内容の文章を共作し、これを通じて児童に作文への自信を与え、自由作文の目標に達する、という過程をとる。応用範分を提示するという教師からの指導過程を設けることに、この「主義」の特色があり、この点で自由作文即無干渉・無指導という「児童中心」の綴り方論と真向から対立するものであった。直観ー比較ー応用というこの過程を牧口は「科学的」と名づけ、どんな子どもにも綴り方の面白さとそれへの自信を与える手続きであると主張した。このような「科学的」指導の重視は、牧口の教授論を通じる基底的な特色であったといってよい。牧口はこの案の「価値判定の標準は教育経済」にあるとし、「教育目的の概念中に経済といふ一条項を加へなければならぬ」と論じていた。

牧口常三郎全集7巻の解題から。
ナンシー・アトウェルの授業とも認知科学の学習におけるアナロジーの研究とも多くが重ります。

牧口常三郎は自由作文を否定していたわけではないです。

チョイスを核とする作文の教育者アトウェルと牧口の授業の共通点。それにしても興味深い歴史だと思います。

アトウェルは境界に立つ人だと思う(ここで言う芦田と牧口の考え方の)。『インザミドル』の第一版から第三版に起きたアトウェルの変化・変容。