山之口獏

今日は山之口獏の有名な「天」という詩と、あと「猫」という面白い詩を紹介。

「船」と「天」と「獏」が特にすき。「猫」も好き。




山之口獏   
悪夢は獏に食わせろと
むかしも云われているが
夢を食って生きている動物として
バクの名は世界に有名なのだ
ぼくは動物博覧会で
はじめてバクを見たのだが
ノの字みたいなちっちゃなしっぽがあって
鼻はまるで象の鼻を短くしたみたいだ
ほんのちょっぴりタテガミがあるので
馬に少しは似ているけれど
豚と河童とのあいのこみたいな図体だ
まるっこい眼をして口をもぐもぐするので
さては夢でも食っていたのだろうかと
餌箱をのぞけばなんとそれが
夢ではなくてほんものの
果物やにんじんなんか食っているのだ
ところがその夜ぼくは夢を見た
飢えた大きなバクがのっそりあらわれて
この世に悪夢があったとばかりに
原子爆弾をぺろっと食ってしまい
水素爆弾をぺろっと食ったかとおもうと
ぱっと地球が明るくなったのだ

夢を評す
山之口獏   
またそのつぎからも
飛んでくる
そのつぎからも
飛んでくる
むかしの奥の方から
つぎつぎに飛び立って
つばさをひろげて
美の絶頂を頭上に高く極めながら
つばさをひろげて
飛んでくる
飛んでくるのであるが
飛んでくるまでが夢なのか
飛んできた爆弾
飛んで来てはまた爆弾
いつもそこでとぎれるのだ


山之口獏   
文明諸君
地球ののっかる
船をひとつ
なんとか発明出来ないことはないだろう
すったもんだのこの世の中から
地球をどこかへ
さらって行きたいじゃないか