国家〈上〉 (岩波文庫)

国家〈上〉 (岩波文庫)

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倫理学の「古典」の精読をとおして、<考える力>そのものの習得を心がけたいと思う。同じく古典を読むのであれば、いっそのこと、倫理学史上の不朽の古典であり、第一級の哲学書とされるプラトン著『国家』を読んでみたい。
 
 不朽の古典と聞いて、おそれる必要はない。プラトンの著作は<対話編>とも呼ばれるが、この『国家』も、全編、ソクラテスと友人たちとの<対話>という形式で書かれている。もともと劇作家を志望していたプラトンの筆によるだけあって、多彩なキャラクターが入れ替わり立ち替わりして織りなす、一個の連続ドラマの感がある。

 登場人物たちが、ときに怒り、ときに笑いながら、白熱の議論をたたかわせるすがたは、読んでいて少しも飽きない。彼らに感情移入(正しくは「思考移入」というべきだが)しつつ、はらはらどきどきして読むうちに、私たちもまたいつのまにか、人間社会の根本問題を自分の頭で考え始めているのである。

 全編をつらぬく根本問題は「正義とは何か」というものであるが、この問いをめぐるプラトンの筆は、法律・政治・経済・科学・教育・芸術・宗教等々、人間社会のあらゆる領域を論じて余すところがない。とりわけ、後半に登場する有名な「哲人政治」論などは、現代の民主社会の問題点を予言したかの如き鬼気迫る論述に、だれもが息を呑まずにはおれないはずである。(とはいえ、本担当者はなにもプラトンを絶対視するつもりはない。彼の議論の筋書きが成功しているかどうか、私たちも読みながら真面目に考えてみたい。)

 プラトンの「対話」の方法に触れることで、「倫理学」とは<机上の学>ではなく<活きた言論>そのものであること、しかし、単なる<心情>ではなく徹底した<思考>の営みであることをつかんでほしい。全巻読みとおしたあかつきには、古典を通して現代世界を考察することの楽しさを実感することができると思う。本担当者自身、初心にかえって、履修者とともに、真剣に勉強するつもりである。
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I先生の大学での授業のシラバス。ああ楽しそう。小学生からやり直したい。