「疫病に効く薬を探す研究者は、新しい流行病におそわれても自分の使命を放棄しないだろう。まして「地上の平和」は、また善意の人々のあいだの友情は、いつまでも私たちの最高の理想であることをやめないだろう。

 動物的な衝動をより精神的な衝動に高めることによって、恥を知ることによって、想像力によって、認識によって、人間的な文化は成立する。人生が生きるに値するということは、あらゆる芸術の究極の内容であり、慰めである。人生をほめたたえる人がみな結局は死ななければならなかったとしても、そうである。

 愛は憎しみより高く、理解は怒りより高く、平和は戦争より気高いということ、これこそまさに、この悲惨な世界戦争が、かつて私たちが感じたよりも深く私たちの胸に焼きつけなければならないことである。それ以外のどこに戦争の利点などあるだろうか」

(伊藤貴雄訳『ヘルマン・ヘッセ エッセイ全集8 時代批評』臨川書店から)