ソーヤーらの学習科学の研究は、ペスタロッチやヘルバルト、カントなど、ここら辺の歴史がごそっとおそらく抜けている。
 
学習科学と教授主義の立場を対比に描いているけれど(既有知識から新しい学習との関連のある教育と関連のない教授主義の教育、さらにはピアジェの具体から抽象へという発見ともありますけど)、ペスタロッチやヘルバルトの教授学って、知っていますか?って思ってしまいますね。
 
1883年に出て、多くの教員の卵の人たちが読んでいた教師教育の教科書にこう書いてありますよ。『改正教授術』巻一の「教授ノ主義」という項目では、ペスタロッチ主義が9か条の格言に要約されています。これらは、世界中の教育に影響を与えたペスタロッチに影響を受けたものです。これらって、ソーヤーらの学習科学のスタンスにかなり重なります。
 
一、活溌ハ児童ノ天性ナリ
  動作二慣レシメヨ
  手ヲ修練セシメヨ
ニ、自然ノ順序二従ヒテ諸心力ヲ開発スベシ
  最初心ヲ作リ後之二給セヨ
三、五官ヨリ始メヨ
  児童ノ発見シ得ル所ノモノハ決シテ之ヲ説明スベカラズ
四、諸教科ハ其元基ヨリ教フベシ
  一時一事
五、一歩一歩ニ進メ
  全ク貫通スベシ
  授業ノ目的ハ教師ノ教へ能フ所ノ者二非ズ生徒ノ学ビ能フ所ノ者ナリ
六、直接ナルト間接ナルトヲ問ハズ各課必ズ要点ナカルベカラズ
七、観念ヲ先ニシ表出ヲ後ニスベシ
八、已知ヨリ未知二進メ
一物ヨリー般二及べ
形ヨリ無形二進メ
易ヨリ難二及べ
近ヨリ遠二及べ
簡ヨリ繁二及べ
九、 先ヅ総合シ後二分解スベシ
 
当時、日本でも欧米でもペスタロッチやヘルバルトを理解して教育設計できていた人は、牧口常三郎は間違い無いけど、この教科書が有名で標準的なものだったようなので、他にもたくさんいた推論するのが自然だと思います。
 
教育心理学系の人たちって、既知から未知へが教育心理学の重要な発見だと強調するけど、ペスタロッチらの業績について触れる人をほぼ見たことがありません(少なくとも記憶にありませんが、教育心理学の領域の専門家でも教育学の教科書を書いている人は違ったかもしれません)。
 
今から100年以上も前に、牧口常三郎が20代の時に書いた論文で、人がどのように既知から新しい観念を獲得していくのかということを文章で表現しているけれど、びっくりするくらい認知科学の基礎研究をしている専門家(世界的に活躍している今井むつみさん)が、幼い子どもが新しい言葉を獲得していく過程を表現したものと似ています。当時の人たちの観察と表現が、ピアジェとか認知科学の既存研究で行われている観察と大きく変わるでしょうか。実験や統計などの方法が今の方が洗練されているというのはあるかもしれません。しかし対象を直接観察して比較、分類していくのは変わらんでしょう。