俳句アンソロジー

閑さや岩にしみ入る蝉の声(松尾芭蕉
五月雨を あつめて早し 最上川松尾芭蕉
荒海や佐渡によこたふ天の河(松尾芭蕉
古池や蛙飛び込む水の音(松尾芭蕉


乗りながら馬の糞する野菊哉(夏目漱石
どつしりと尻を据えたる南瓜かな(夏目漱石
秋風や棚に上げたる古かばん(夏目漱石
水仙の花鼻かぜの枕元(夏目漱石
草山に馬放ちけり秋の空(夏目漱石
秋の川 真白な石を拾ひけり(夏目漱石
秋風の一人を吹くや海の上(夏目漱石
別るるや夢一筋の天の川(夏目漱石
灯を消せば涼しき星や窓に入る(夏目漱石
耳の穴掘つて貰ひぬ春の風(夏目漱石
菫ほどな小さき人に生まれたし(夏目漱石


柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺正岡子規
風呂敷をほどけば柿のころげけり(正岡子規


春の海 終日のたりのたり哉(与謝蕪村
朝顔や一輪深き淵の色(与謝蕪村
菜の花や月は東に日は西に与謝蕪村

雪とけて村いっぱいの子どもかな(小林一茶
やせ蛙まけるな一茶これにあり(小林一茶
雀の子そこのけそこのけお馬が通る(小林一茶
蟻の道雲の峰よりつづきけん(小林一茶
やれ打つな蝿が手をすり足をする(小林一茶
名月をとってくれろと泣く子かな(小林一茶
うまさうな雪がふうはりふうはりと(小林一茶
我ときて遊べや親のない雀(小林一茶
猫の子が手でおとす也耳の雪(小林一茶



遠足のおくれ走りてつながりし(高浜虚子
ゆさゆさと大枝ゆるる桜かな(村上鬼城
青がえるおのれもペンキぬりたてか(芥川龍之介
とんぼつりきょうはどこまでいったやら(加賀の千代女)


水たまり空のすべてを中に閉じ(イタリアの俳句)




あいうえおかきくけこであそんでる(小2女)
(最初からドカン! これはね、レイモン・クノーですよ)
ぼんおどり大好きな子のあとにつく(小6女)
(トレンディドラマなんてこれを越えてないかもしれない)

まいおちる木の葉に風がまたあたる(小5男)
(素直だが、こういう詠み方こそ斎藤茂吉なんです)

ねこの耳ときどきうごく虫の夜(小4女)
(「ときどきうごく」と「虫の夜」がエントレインメント)

くりごはんおしゃべりまぜて食べている(小3女)
(ぼくのスタッフで昼食でこんな句をつくれる奴はいない)

あきばれやぼくのおりづるとびたがる(小1男)
(おい1年生、おまえは山村暮鳥か、それとも宮沢賢治か)

座禅会むねの中までせみの声(小6男)
(座禅もして、蝉しぐれを胸で受けるなんて、ああ)

かいすいよくすなやまかいがらすいかわり(小1女)
(傑作です。海水浴砂山貝殻西瓜割。すでに寺田寅彦だ)

風鈴に風がことばをおしえてる(小4女)
(あれっ、これは草田男か、日野草城にさえなっている)

ドングリや千年前は歩いてた(小5男)
小林達雄先生に教えたくなるような悠久の名句です)

海の夏ぼくのドラマはぼくが書く(小2男)
(おいおい、ミスチル・スマップより男らしいぞ)

ぶらんこを一人でこいでいる残暑(小6男)
(ふーっ、てっきり種田山頭火かとおもってしまった)

春風にやめた先生のかおりする(小4女)
(うーん、まいったなあ。中勘助ですねえ、これは)

ガリバーのくつあとみたいな夏のくも(小1女)
(雲を凹型で見ている。押し付けた雲だなんて、すごい)

夏みかんすっぱいあせをかいちゃった(小1男)
(「ナッちゃん」なんて商品でごまかす場合じゃないよ)

なのはなが月のでんきをつけました(小1女)
(これは未来派かイナガキタルホだ、今回の最高傑作)

せんぷうき兄と私に風分ける(小5女)
(扇風機の人工風をシェアするとは、なんとまあ)

転校の島に大きな天の川(小4男)
(ボグダノヴィッチや新藤兼人が撮りそうな風景だな)

つりばしがゆれてわたしはチョウになる(小3女)
(あなたに抱かれて私は蝶になる、なんて歌、はずかしい)

水まくらキュッキュッキュッとなる氷(小5女)
(知ってますね、「水枕ガバリと寒い海がある」西東三鬼)

そらをとぶバイクみたいなはちがくる(小1男)
(見立てもここまで音と速度が入ると、立派な編集術だ)

しかられたみたいにあさのバラがちる(小2女)
(朝の薔薇に着目するとは、利休? 中井英夫?)

かっこうがないてどうわの森になる(小3女)
(「桃色吐息」なんて小学3年生でもつくれるんだ)

星を見る目から涼しくなってくる(小4男)
(エルンストが「星の涼風を目に入れる」と書いていた)

いなごとりだんだんねこになるわたし(小1女)
(「だんだんねこ」→「段々猫」→「だんだらねえ子」)

夏の日の国語辞典の指のあと(小5女)
(完璧である。推敲の余地なし。大人は反省しなさい)

墓まいり私のごせんぞセミのから(小4女)
(おお、戸川純だよ。まいった、参った、詣いりたい)

あかとんぼいまとばないとさむくなる(小1男)
(小学校1年でウツロヒの哲人?)

青りんご大人になるにはおこらなきゃ(小6女)
(よくも青りんごを持ち出した。大人にならなくていいよ)

あきまつりうまになまえがついていた(小2女)
(この句はかなりすごい。談林の句風がこういうもの)

あじさいの庭まで泣きにいきました(小6女)
(こういう子を引き取って、ぼくは育ててあげたいなあ)

天国はもう秋ですかお父さん(小5女)
(いやはや。何も言うことはありません。もう秋ですよ)

台風が海をねじってやってきた(小6女)
(ちょっとちょっと、このスケール、この捩率感覚!)

話してる文字が出そうな白い息(小6男)
(はい、寺山修司です。ISIS編集部に雇いたいくらいだ)

えんぴつが短くならない夏休み(小6女)
(鉛筆も思索も短くならない夏休みを大人は送っている)

秋のかぜ本のページがかわってる(小2女)
(波郷か、グリーナウェイだ。風の書物の到来なんですね)

362夜『小学生の俳句歳時記』金子兜太・あらきみほ|松岡正剛の千夜千冊